日記というか。

……まあ、日記です。同人向注意。

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花格子 24

幸兼万歳!
花格子更新です。そろそろ終りです。







目の前に映ったのは。
ただ、白い。
何処までも白い。

一枚の布である。部屋の内部にささやかに灯された明りに照らされて、その布は白く滑らかな表面を浮き立たせていた。
いや、ただの布ではない。微妙な皺、人一人分の凹凸。人間が布に、いや着物に包まっているのだと幸村は知った。
布は、その人間の頭部までを包み込んでしまっているため、顔が見えない。その布の上に、どこかから吹き込んできたであろう桜の花弁が一枚、二枚、重なる。
「兼続殿……?」
幸村は部屋の主であろう人物に問いかける。その人物は身じろぎもしない。
はら、はら。
桜は次々と着物の裾に舞い散ってくる。
「兼続殿!」
幸村は少しだけ苛立ち、意識して呼吸を沈めてから、兼続と思わしき人物の元へと歩み寄った。
間近で見ると、その着物は、白装束の様に見えた。しかし、仕立てが女物である。しかも上等そうな代物。そこまで考えて、幸村は「ああ」と声を出した。
これは、白無垢だ。婚礼衣装だ。
「兼続殿、お顔をお見せください」
顔は綿帽子の陰に隠れて見えない。そっと覆っている綿帽子に手を伸ばすと、微かに身を捩って逃げた。
「かねつ、」
「厭だ」
兼続の声。
「滑稽だと笑えばいい、男が白無垢等、と」
兼続の声は泣きそうな響きを孕んでいた。
「でも、これが、私の望みだったんだ。私は、男、だから。お前の側には居てやれないから。居ては、いけないから」
幸村は息を呑んだ。なにかを言いかけて、そしてその言葉を飲み込んだ。兼続は更に言葉を続ける。
「真田家の息子が、お前が結婚すると聞いたんだ。私は喜ぶべきだったんだ。だけど、喜べなかった。なんと、涙が、出てきたんだ。はは、可笑しいだろう?友としてお前の幸せを願ってやるべきだと分かっていたのに、寂しくて、切なくて。なんで幸村の隣に居るのが私ではないんだろう、って考えたら、涙が溢れて止まらなかったんだ。変だよな。なんでこんな」
「兼続殿」
兼続の震える声を、それ以上聞いていられなくなって、幸村は遮った。
「兼続殿。好きです」
「……え?」
「好き、です」
「でも、お前は、他の娘と結婚……」
皆まで言わせず、がし、と幸村は兼続の肩を抱き寄せる。それでも綿帽子の陰に隠れた兼続の目元までは伺い知れなかった。
「兼続殿は、私の事が好きですか?」
「……」
「どうなんですか?」
ふるふると、兼続の口元が震えた。きっ、と結ばれたかと思うと、あえかに吐息を漏らす。苦しげに息を吐くと、その息が悩ましく幸村の耳を擽った。
「……っ」
掠れた声が、鼓膜を掠った。
「もう一度」
「……」
こくり、と兼続の喉が鳴った。
「…………好き……」
それだけ言うと、兼続の湿った吐息が幸村の首に触れた。濡れた感触が、着物の肩にある。兼続は、声を殺して泣いていたのだ。
「貴方が泣く必要はありませんが、泣きたいなら大声で泣けばいい」
「厭……だ。私は、こんな事、言うつもりはなかったのだ。ずっと黙っていて、二度と会わないつもりだった」
か細い声で、兼続は呟いた。
「だけど……だけど、唆されて、どうしようもなくって。お前の隣に、こうして座っていられたら、どんなに幸せだろうと夢想して。一度だけでよかった。嫌悪されても、最後だからいいと思った。でも、今はただ、惨めで。でも、お前がいっそう愛しく感じて。私は、」
「もう、いいんです。それ以上は言わないで」
そっと、兼続の口唇に、幸村は指で触れた。黙り込んで、ただしゃくりあげる兼続の唇を親指でなぞって、そして、幸村はゆっくりと口唇を重ねた。
しばらく、時間が止まったように思えた。
幸村はようやく唇を離すと、兼続の綿帽子を取り上げた。呆然とした表情を浮かべ、幾筋もの涙の跡を残した兼続の顔に、幸村は指で触れて優しく撫でた。
「私は、いつまでも貴方の側に居ます。もう泣かなくていい。……愛しています」
それが限界だった。
顔面をぐちゃぐちゃにした兼続の目からは、滂沱の涙が溢れ、幸村に抱きついてわあわあと声をあげて泣いた。
幸村はその背中を撫でながら、いつまでも、何度も、舌でその涙を拭ってやり続けた。


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