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日記というか。

……まあ、日記です。同人向注意。

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出会えた奇跡

やあ!げんこ(以下略)

獣化です。今回は左三なんだ!珍しく。人間じゃない方が頼りになる左近(酷い)。







勢いで飛び出してきてしまったが、子狐は早くも後悔していた。
ここはどこだろう。緑がない。土もない。
ウロウロと歩いているうちに、水の音に出くわした。喜んで走っていく。
川だ。まばらな草の生えた川原に小さな川が流れている。だが酷く淀んでいる。
河原には背の高い草が生えている。なにかいるだろうか。子狐は灰色の坂をおりて暫く川原を探す。どうやら川原には小さな虫位しかいないようだ。
と、
「なにしてんですか、あんた」
子狐が声の方向を見上げると、一匹の猫がいた。
灰色の縞猫。ぼさぼさの毛並みにふてぶてしい面構えは、さっき会った連中と大分違う。
「あんた狐でしょうが。こんなところいたら人間に狩られますよ。悪いこと言わないから、さっさと元居た山に帰んなさい」
「帰らぬ。俺にはやらなければならぬことがあるのだ」
「なにを?」
「……お前なぞに言うことではない」
「まあまあ、少しはすっきりするかも知れませんよ? あんた、酷い顔してる」
「お前に分かるか! 俺は母を殺されたんだ!」
ぎゃあぎゃあと喚き散らす。結局全部吐き出した。思えば、誰かに母の事を話すのは初めてだった。涙が出てきて、声が止まらなかった。縞猫は、うんうんと頷いて最後まで聞いてくれた。
「わかったわかった。とりあえず泣きやみませんか?」
「うぅ……お腹空いた……」
いったん落ち着くと、別の意味で涙が出てきた。情けない。
「ああ、腹減ってんですか。ちょっと待ってなさい」
縞猫は草むらをごそごそしていたと思ったら、食べ物を取り出してきた。なんだかよく分からない、森にはなかった物だが、匂いで食べ物と判断できた。もう我慢ができない。
子狐ががつがつと食べ物をむさぼるのを、縞猫は苦笑いしながら見ている。
けぷ、とげっぷがするほど、子狐がありったけの食べ物を腹の中に収めると、縞猫はちょいちょいと手を出して話しかけてきた。
「やっぱりあんた、山に帰りなさい」
「帰らない!」
ぷい、と子狐が横を向くと、縞猫は苦笑いを浮かべてこう言った。
「人間ってのは勝手なもんでね。もっともらしい理由をつけて、他人の領域には土足で踏み込む癖に、自分の領域に踏み込まれたらどんな理由があろうと許さない。残忍な程にね」
子狐は横を向きながらも、ぴこぴこと耳だけは縞猫の方に向ける。
「人間様の理由は『野生の獣が増えすぎない為』、あんたの理由は『復讐の為』。どっちが正しいとかじゃないんですよ。力と数がどちらが勝っているか。理ですよ。分かりますか?」
「……理、か。分かる」
「よし、獣の割に中々やるじゃないですか」
「……でも」
「あんたの親を殺した人間はどこにいるか分からない。人間全部がそいつと一緒な訳じゃない。あんたが復讐の為に誰か一人殺す。人間はあんたの種族は危険だと判断する。あんたのお仲間が大量に殺される。負の連鎖だ。オーケー?」
「……分かった」
「いい子ですね」
「しかし、だから、見逃せと? 全てなかったことにして忘れて生きろと!?」
「それが一番賢いんですよ」
「俺は嫌だ……嫌なんだ」
「……あんたの山では、なにかの理由で毎日死んでる奴がいる。皆、それを嘆いちゃいないでしょう?」
「みんなに馬鹿だと言われたよ」
「その考え方は、獣じゃない。それは……人間の考えです」
……あんなものと、一緒だと?
「俺はあんなものと違う! 俺は俺だ!」
全身の毛を逆立てて怒鳴った。そう、俺は俺だ。それ以外の何者でもない。子狐は誇りを持ってそう言い切れた。
「やれやれ。しかし、あんたみたいな馬鹿は嫌いじゃない。誰かさんを思い出す」
縞猫は溜息を吐いて、遠い目をした。
「……あんたの気がすむまで、一緒にいてやりましょう。俺は左近って言います」
「左近」
「そう、左近です」
「左近も、人間に飼われてたのか?」
「ははっ! 飼われていたと言えば、そういう事になるでしょうかね? 言い得て妙な言い回しだが。まあ、今はしがない野良猫ですよ」
左近は皮肉気に笑った。
「あんた、名前は」
「ない」
「……じゃ、僭越ながら俺がつけさせて貰いましょう。『三成』さんってどうです?」
「三成?」
「狐だからですよ。頭が良くって我儘で、手間がかかって仕様がない、山のてっぺんに住んでいる、綺麗な狐です」
よく分からない事を言いながら、左近はおどけたように笑った。
「……あの人が聞いたら、さぞや怒るんでしょうけどね。『こんな子狐に俺の名を冠するとは』って……また、ああいう風に怒って欲しいんですけどね」
左近は俺にはよく分からない事ばかり言う。俺は誰かに怒られたくない。ただ、俺は左近がいないと、この人間の街で生きていけない事は分かった。だから。
「左近。頼りにしている」
そう、左近に言った。
左近は驚いたように目を見開くと、俺には聞き取れないくらい小さな声でなにかを呟いた。なんだか、泣きそうな顔をしている。俺は慌ててなにがいけなかったかを考えたが、なにも浮かばなかった。
左近は、ただ黙って、いつまでも俺の顔をぼんやりと眺めていた。


いつかきっと、また会えると信じていた。

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